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  • 『ス・ワ・ン』初日観劇 Report

    力強く高く飛べ!! 三羽の白鳥

    〜3軒茶屋婦人会の新たな飛翔〜


     外は強めの雨音。生憎のお天気のもと、3軒茶屋婦人会Vol.6『ス・ワ・ン』は初日を迎えた。

    バンドの写真
      三話からなるオムニバスという新しい試み。舞台上の薄闇には、センターに四角く出入り口をうがった大きな壁と、木製の床からなるシンプルな舞台装置。舞台下手に演奏家のスペースが用意されている。初日らしい落ち着かなげな客席のざわめきが、客電のフェードアウトと交差するように流れ出した音楽と緩やかに交代していく。
     ウッドベースとフリューゲルホーンによるメロウな旋律とともに始まった第一話『ルソンの壺』は、意外にも時代物だ。江戸初期、幕府の禁教令によってルソンに流されたキリシタン大名・高山右近の妻・妙(大谷亮介)と娘・お初(深沢敦)、二人を訪ねて来る小西行長の養女・おたあ(篠井英介)。本音を隠した遠まわしな三人の会話はやがて、愛憎や復讐心など生々しい感情と信仰とを引き比べ、人が生きるために本当に必要なものを浮き上がらせていく。

    第一話『ルソンの壺』の写真


    第一話『ルソンの壺』の写真




    江戸初期、武家の女人装束に身を包み登場した大谷と深沢の、普段とのギャップの大きさのためか客席から一瞬笑いが起きたが、すぐにドラマへと引き込まれ集中した空気に。自身の運命を受け入れ、「復讐に信仰を利用する」と言い切るおたあ=篠井の、凛とした佇まいは劇場の空気は一変させるほどの緊張感を孕む。また劇中、母子が切々と胸中を歌う場面では思わず拍手が起きた。
     歌の余韻も冷めぬまま、和服の二人と入れ違いにシルエットで現れたのは第二話「広東の林檎」の駱招娣(ルオ・チャオディ=篠井)。今度の三人は中国は広東省深圳にあるiPhone工場の女工員だ。招娣はこの工場のライン監督係だった婚約者の自殺と、その直前に届いた不可解なほど希望に満ちた内容の手紙の謎を解くため、同僚だった王 佳芝(ワン・チアチー=大谷)と呉 穎(ウー・イン=深沢)を詰問する。

    第二話「広東の林檎」の写真 第二話「広東の林檎」の写真
     
      たおやかな武家の女性から一転、ハスっぱな女工員になりきる大谷、深沢に客席は大喜び。だが語られるのは過酷な労働環境と、汚職や不正さえ生き延びるための手段とする現代版女工哀史とでも言うべき工場の内情。
     終幕、真実の一端に触れた招娣は舞台上で一人、予想外の行動に出る。女性ならではの“儀式”、そこに込められた“想い”の強さと、痛々しい美しさに鳥肌が立った。
     一際ムーディな音楽とともに照明が舞台下手の一隅を照らすと、舞台はまだ戦後が色濃い昭和のキャバレーに。ミニマムな変化で場面を変えるG2演出が冴える。
     第三話「炎のスワン・シスターズ」は、今作では一番婦人会らしい作品と言えるだろう。裏世界の人間も多いこの店で働くホステス知恵子(深沢)と直美(大谷)は、日陰暮らしを脱し女性コーラス・トリオを始めようと、かつてレビューで活躍していた美津子(篠井)に話を持ちかける。

    第三話「炎のスワン・シスターズ」の写真

     情も愛嬌もたっぷり持ち合わせているのに、男運の悪さが共通の三人。その夜も夢が現実に近づいたかに見えた途端、思いがけぬ「事件」に巻きこまれてしまう。裏切られても汚れきれない、人の好い女三人が切なくいとおしいのは、女方俳優三人の人徳のなせるワザか。大き過ぎる夢に駆け出す女たちに、劇場中が手に汗握り、心ひとつにして声なき声援を送っているように感じた。
     さらにラストにはもうひとつ、観客にとって嬉しい“サプライズ”も。舞台に足を運んだ観客だけに贈られる、三羽のスワンからのプレゼントは是非、劇場で目撃していただきたい。
     夢から覚めたように明るくなった客席を見回すと、周囲の誰もが笑顔を見せている。時代も背景もまったく異なる三話だが、三つのドラマを生きる九人の女を追いかける110分は、確実に観る者を元気にしてくれる。

    text:SORA ONOE




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